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「巻き込んでしまってすみません」

 気にするな。それでは納得しないのも知っているがそう言うしかなかった。別に誰に頼まれたわけでもなく、ダニエルは自分から巻き込まれたのだから。それにベッドから出ることも叶わないレオナルドに比べれば怪我など負っていないに等しいし、謝る必要などない。だというのにこいつは大層気に病んでいるようだった。

 連絡が繋がらなくなって慌てて姿を探し現場に駆けつけたときにはもうレオナルドはボロボロで、なぜ立っているのかも分からないくらいだった。対峙するのは見ただけで相当ヤバいやつだと分かるほどの異形で、ただの人間であるダニエルには対抗する手はなかった。それでも必死に自らの力で道を切り開こうとする姿を見て、力になりたいとおもったのだ。

 それなのにレオナルドは差し伸べられた手を取ったことを罪だと思っているようだ。いつもはうっとおしいくらいに周りでぎゃあすか騒いで、事件に巻き込まれると途端に助けを求めるというのにだ。呆れるほど名を呼ぶものだから、最近では現場に立ち合う部下達もからかってくるくらいの日常になってしまっている。
 けれどもダニエルはそれを苦痛だと思わないし、あいつを助けるのは俺の役目だというのに優越感を覚え始めていた。 他のやつを頼るくらいなら自分を呼べばいいとさえ思っている。だというのにレオナルドは眼のことになると途端にダニエルを遠ざけようとする。普通の人を巻き込むわけにはいかないと言って。
 ダニエルにはそれが許せなかった。確かに自分は異界の存在に対して無力な人間であるが、眼以外はレオナルドより劣っているとは思わない。だからこそあいつもこれまで散々頼ってきただろうに、本当に助けが必要なときには関係ないからと突き放される。あいつの中で俺はその程度の存在として位置していたというのか。
 目覚ましに一発くらわしてやりたい気持ちになるが相手は怪我人だと己を落ち着かせる。

「退院したら一発見舞わせろ」
「え"っ!あー、まー、はい」

 俺が悪いですし、それくらいならと窄んでいく言葉尻から巻き込まれたことに対しての制裁だと思っていることが伝わってくる。

「何か勘違いしているようだが、俺は巻き込まれたんじゃねえ。自分から首突っ込んだんだ」

だって首をつっこむのだから。たとえ追い返されようとも、知らされずにいようとも。

「だからお前も気にせず俺を巻き込め、当てにしろ」

 そう告げるとポカンと口を開けて黙り込んでしまった。糸目のわりに表情豊かな奴だとはおもっていたが、口元だけでも相当分かりやすい。

「なんで。だってダニエルさんは普通の人で、この眼は俺個人の問題で」

 ちいさく震える言葉は支離滅裂だが、言いたいことは伝わってくる。レオナルドはあくまでも眼の問題には他者を、ことさら一般人を巻き込みたくないらしい。

「それでも、だ」
「でも」
「でもじゃねえ。大人しく頷いとけばいいんだよ」
 何か言いたげな様子ではあったが反論は聞く気がないと気がついたようで口を閉じた。それでも頷かないのはコイツなりの抵抗なのだろう。言質をとることは容易だが、そんなもので縛れるはずもない。 この眼のことで何かあればまたコイツは一人でなんとかしようとする。例え誰かを頼ろうとしたとして、それは自分ではない。分かっているからこそ無理に頷かせることもできなかった。
 だが知らないところでくたばるなんて勘弁してほしい。それほどに自分はこの少年に思いを寄せているのだ。最初は保護してやらなければという思いから傍に置いていたが、共に過ごすうちに絆され、今では隣にいるのが当たり前になった。
 それが当然のことすぎて気が付かなかったが、今回のことでハッキリした。傷つき、命までも奪われようとする姿を目の当たりにしてようやく、自分はこの少年を愛しているのだと、隣にいてほしいのだと気がついた。
 だから力になりたいと思う。困難があれば険しい道のりだとしても共に乗り越えていけばいいと思うのだ。もう二度とあんなにも肝の冷える思いをするのは勘弁したい。真っ白い部屋の中で穏やかに眠る姿に、死んでいるのではないかと不安になったことも少なくはない。その度弱いながらも脈打つ心臓にほっとした。そして自分の全てをかけてもこの人間を護ると決めたのだ。

 この少年はこれから幾度となく望まざる神の力によって傷つくだろう。しかしそんなものは承知の上だ。その上で妹の視力を取り返すその日まで、いや、その日が過ぎても俺はコイツの助けでありたい。
 だが、そんなことを口にするなんて柄でもない。この決意は自分だけが知っていればいいことだ。
 せめてこれくらいはいいだろうと、レオナルドの身体を引き寄せて頭を抱きかかえる。 正直この想いの全てが伝わらなくていい。それでも、頼ってもいいのだと思うくらいにはこの強がりに届けばいいと想いを言葉に乗せた。

『愛してる』とは言えないから、
「最後まで、味方だ」と口にする


診断メーカーでダニレオ掌編

HLに来てザップと出会う前にダニエルに拾われたレオナルドが義眼目当ての異界人となんやかやあってケガしたよっていう設定
2015/09/28