フェムレオ新刊『僕のお稲荷さん』を出す予定です!ほんわかで獣化ものです!出なかったらごめんね!
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アッ;;;めっちゃかわいい;;;お稲荷さまフェムトとなぜかちょっかいかけられる少年レオナルド;;;
ベタに狐姿の時に助けられて気にしだすとかが;;いいです;;;;ソニックと肩の上でわちゃわちゃしてたらもう最強にかわいい;;
上記がことの発端のわりに、本題の肩でわちゃわちゃ書く前に力尽きたやつのサルベージ
クソッ!
心の中で罵声を吐き人型になろうとするが、どうにもうまくいかない。どうやら罠には術を打ち消す結界が張られているらしかった。魔術のみならず妖術までもが打ち消されるとは、それなりの術者が噛んでいるのに違いないだろう。
「全くどこのどいつが仕掛けたのか知らないけど、この僕を罠にかけるだなんて罰当たりにも程があるぞ!」
檻に閉じ込められている狐のフェムトは、これでも神の遣いとされる稲荷であった。普段は人界を離れて人間を観察しているのだが、気まぐれでこうして出てきてみればこのザマだ。
やり場のない感情を宙に向けて発する。しかし獣じみた咆哮は路地に吸い込まれていくばかりで、余計に虚しさが増した気がした。
仕方なくぐいぐいと鼻先を押し付け檻と地面の間を押してみるも動く気配はない。この獣の姿の時は魔獣の種も持ち歩いておらず、頼ることはできそうにない。ましてや無力なこの手ではどうすることもできない。何か使えそうなものはと辺りを見回しても、手を伸ばせる範囲には何も落ちておらず、昼間でも薄暗い路地には人通りもなくできることは何もなかった。
罠を仕掛けているということは誰かが確認しにくるのだろうから、外した瞬間に仕返ししてやればいいことか。ごろりと地面に横たわって、現れた奴をどう始末してやろうかと考えを巡らせる。同じように罠にかけてやるのもいいが、それだけではフェムトの気が済みそうもない。
体を地面に擦り付けるように寝返りをうち、あーでもない、こーでもないと思案していると何かの近づいてくる気配がする。ここから出られる期待に耳と尾をぴんと立たせたフェムトが目線だけで姿を見ると路地に入ってきたのはダボついた服を身に纏った、いかにも人畜無害そうな人間だった。結界を張るような高度な罠を仕掛けられるようにも、それを解除することもできなさそうな普通の人間の登場に、これは期待できそうもないとぱたりと地に落ちた尾を横目に視線を戻す。
一度意識をそらされると興が覚めてしまって、再びこの罠を仕掛けたものへの仕返しを考える気にもなれなかった。ぱたりぱたりと尾を揺らしてただ時間が過ぎるのを待つ。
ああ、退屈だ。
眠ってしまえばこの退屈から逃れられる気がして、眠くもないのに瞼を閉じていると、ふと影が落ちたように目の前が暗さを増す。
「出られないのか?」
降ってきた声の主に目をやると、先ほどの人間が近づいてきていた。遠くからは分からなかったが、細いと思っていた目は元かららしく、開いているのかが分からない。檻の傍で片膝をついているのは目線を合わせるためだろうか。面をつけたフェムトと目が開いているのかも分からない少年の間にその言葉が果たしてふさわしいのかは分からなかったが、そんなことはどうだってよかった。それよりも気になったのはその行動だ。別に小さな生物に対して目線を合わせるためにしゃがみ込むのは珍しいことでもないだろう。こんな得体のしれない獣に対してでなければ。
紙の面なんて珍しいなー、これなんの柄だ?なんて独り言を言いながら、少年はまじまじとこちらを見つめてくる。不躾なそれが不愉快で、ついと顔をそらす。少年がちょっと待ってろよと告げると、どさりと何かを地面に置く音がした。
「んぎぎぎぎ!……っかしいなー」
肩越しに聞こえてくる声を聴く限り、普通の人間である彼が持ち上げようとするだけではビクともしないようだ。まあこの自分を閉じ込めるほどの結界がそう簡単に解除できるはずもない。時折唸りながら試行錯誤しているようだが、うるさいばかりで檻が消えることはなかった。さっさと諦めてしまえばいいのに、頑なに動かない檻はむしろ少年の何かを火をつけたようで段々熱を増していく。檻の中でころりと寝返りをうち、ムキになる姿を見るとやるせない気持ちになった。
「もう諦めたらどうだい?」
とうとう辛抱ならなくなったフェムトがため息交じりに声をかけると、少年は力が入りすぎて強張った顔を崩して笑ってみせる。
「大丈夫、出してあげるからな」
「無理でしょ」
「お前無理だと思ってるだろ!腹立つ狐だな!」
「分かったならさっさと立ち去りなよ、人間」
少年には獣の鳴き声しか聞こえていないはずなのに、言いたいことは伝わったらしい。もう放っておけという意思表示も込めて身を縮こめると寝る体制に入る。悔しそうなうめき声が耳に入るが、フェムトの知ったことではない。
「くっそ、こうなったら何が何でもこの檻どけてやる...!」
いきり立った少年は何やらごそごそしていたかと思うと術がかけられてることにようやく気が付いたようで肩を落としていた。ほらみろ、だから無理だっていっただろ。もはや視線をやるまでもなかった。
少年は、その場でしばらく思案すると足早に立ち去って行った。あれだけどかしてやると息巻いていたのに不可能だと分かるとこうもあっさり離れていくのかと思うといっそ面白かった。これだから人間は。うるさいのがいなくなったのは幸いだが、これでまた退屈な時間がやってきた。いったいいつになったらここから出られるのか。フェムトは小さく欠伸をかみ殺すと瞼を下ろした。
ふわふわとした思考の端に砂利を踏む音が入り込んでくる。ふたり、いや三人はいるだろうその足音が徐々に近づいてくるにつれフェムトの意識もはっきりしてくる。
「こっちです!」
「ったく、何だって俺が……」
「もー、早くしてくださいってば」
「そうですよ、早くしないと手遅れになるかもしれません」
「へーへー」
路地の薄暗い雰囲気を打ち破るような喧騒と共に現れた三人の足並みは揃っていなかった。忙しない先導者は足早に歩を進めるが、渋々ついてくるようなゆったりとした相手を連れてくるため時々足を止める。もう一人はそれを分かっているのか急ぐ様子ではなかった。地面についた頬から先導者がじれったそうに地面を擦る音が伝わってくる。
まだ少しぼやける頭を振り払って覚醒させて顔を上げる。さて僕を罠にかけたのはいったいどんな。そう思ったところでフェムトの眼に飛び込んできたのは予想外の人物だった。
「あっまだいた!よかった」
走ってきたのか、額に汗を浮かべているのはさっき檻を開けるのを諦めた少年で。相変わらず開いているのか分からない糸目と視線が合うと目の前の人間はふにゃふにゃと表情が和らぐ。
「レオくん、この子ですか?」
「そうです!」
「これはなんというか、面妖な....」
遠目にまじまじと見てくるのは異界人だろうか、青い肌に魚のような顔つきをしている。お前も大概面妖だろうと思ったが、この街で容姿を気にすることもバカバカしい。
「まあ顔を紙で覆ってる以外は普通じゃないですか?」
あっけらかんといってのける少年に納得している姿をみていると、まるで先ほどまでの焦りが嘘のようだ。お前ら何をしに来たんだと言いたくなる気持ちがわいてくる。
「ひとまず壊してみましょうか」
魚のような顔をした連れが何事かを呟くと、辺りに風が巻き起こる。風というよりもハリケーンに近いそれをうけて、狭い路地に砂利や中身のない段ボールが宙に舞う。ごうごうと音を立てる空気のうねりはさぞ強いものだろうと想像できるが、檻の中は全く影響を受けることがない。フェムトはただ外の様子を眺めているだけだった。
「これは……」
「ツェッドさんでもダメですか」
一瞬の風が収まっても変わらずそこにある小さな檻の存在を認めて目に見えて落ち込む少年につられ、風を起こした彼も触角を下げすみませんと弱く告げる。その声に少年は慌てて手を振りながら返事を返しているが、表情は明るくならない。笑みを浮かべようとはしているが、作っているのがバレバレだった。
「なーこれ、術の核ってどこだ?」
「は?」
「は?じゃねえよ、核だよ。かーく。お前見えんだろ」
今の今まで一歩引いたところで黙っていた褐色肌の男が少年に尋ねると、少年は慌ててゴーグルをつけ始める。はて、あのゴーグルには何か特殊な仕掛けでもしてあるのだろうか。興味を惹かれたところで少年には何かが見えたらしい。
「見えました!檻の四隅です!」
「それが分かれば楽勝だ」
褐色肌の男はライターを懐から取り出すと指で蓋をはじいて着火する。すると檻の四隅が突然火を上げ始めたかと思うとパリンと結界に罅が入る。瞬く間に消えていこうとする火とともに結界である檻も砕けていく。後に残るのは中にいた自分と、助けに現れた三人だけ。一瞬のうちに全てが終わってしまって呆気にとられたが、どうやら片がついたらしい。
「ふふん、どうだ」
「大丈夫か!?」
「おい、てめ!」
ゴーグルを下ろしながら駆け寄ってきた少年は膝をついてフェムトにケガがないかを確かめる。後ろでギャーギャー騒ぐ男は放っておいていいのかと目をやると、もう一人があしらっているのが見えた。うるさいが、まあ仕方が無いと目線を戻すと、少年は心配そうに手を彷徨わせいる。こちらに手を伸ばすだけで無理に触れてこようとしないのは下手に動物に近づくと警戒させるだけだと知っているからだろうか。理由はどうあれ、あまり他者との接触を好まないフェムトとしてはありがたかった。
触れさせる代わりにフェムトが大丈夫だと言わんばかりに一鳴きしてやると少年はホッと顔をゆるませる。
「よかった。もうこんな罠に引っかからないように気を付けるんだぞ」
ほらおゆき、と送り出されるがフェムトはその場から動かない。このどこにでもいそうな平凡な人間が気になって仕方がなかったのだ。首を傾げながら様子を伺ってくる少年の顔をジッと見つめていると視線に耐えかねたのか身じろぎする。
「どうしたんだよ、何かあるのか?」
「何か?何かと言われれば用事はないんだけれど、気になることはある。君は何だ?どうしてわざわざ僕を助けに戻った?まさか狐一匹殺されるのも許さないとでも言うつもりかい!傲慢にも程があるぞ、人間!」
「うううん、ごめんな。何言ってるのかさっぱり分かんないや」
「なんだい、さっきはさも分かっているような態度を見せたくせに!」
責め立てるように鳴く狐の勢いに押されて腰がひけていく少年にじりじりと迫っていく。ふわふわとした尾は音が鳴るほどの勢いで地面を打つ。前脚を伸ばせば少年の膝に触れる距離までくると、フェムトはそこに座って少年を見上げた。何が起こっているのか手を宙に彷徨わせながらきょどる姿は普通の人間そのもので、フェムトは一際大きく叫んだ。
「普通だ!」
ひいと情けない声を上げながら肩を揺らす彼は、本当に、どこにでもいる人間だった。そうと分かればもう興味はなかった。
全く、度し難い!
鼻を鳴らして踵を返すと、フェムトはそのまま振り向くこともせずに暗闇へと姿を消した。