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こたつでぬくぬくしてるだけのスティレオSSS



「お待たせ」
 そう言いながらコトリと音を立てて目の前にマグが置かれる。炬燵の温かさに負けてへたりと机に頬をつけてくつろいでいたレオナルドは顔を上げることもなくお礼を告げた。倒さないように少し離れたところに置かれたマグをぼんやりと眺めていると、自分のマグのすぐ隣にスティーブンのマグが置かれて、あれと思う。そこだと正面からは少し遠いんじゃ、そう思って体を起こすと、背中が何かにぶつかる。何だ。思う間に足元にぬるい空気が流れ込んだ。
 レオナルドを挟むようにするりと入り込んだのは見るまでもなくスティーブンの足で、体もレオナルドに覆い被さるように背中に密着している。
「狭いから向かいにでも入ってくださいよ」
「えーいいじゃないか」
 動かないぞと言わんばかりに肩口に顔を埋めて腹に回された腕に力をこめられる。駄々っ子のようにぎゅっと絡みつく腕は締め付けるほどではないけれど少し苦しくて、伝えるように軽く叩くと力が緩められた。
 この様子だと何を言っても仕方が無いだろう。離れてもらうことを諦めて、持ってきてくれたコーヒーが冷めないうちにとマグに手を伸ばす。淹れたてのコーヒーからは湯気と共に香りがあがりレオナルドの心を落ち着かせる。
 息をかけてからまだ熱いそれを口に含むと口いっぱいにコーヒーの香りが広がる。飲み込むと体の中から温まる感じがして、思わず、ほうと息が漏れる。
 身体がぽかぽかとしてくると、背中にへばりついたスティーブンがひやりと感じられた。
「スティーブンさん、寒くないんですか」
 部屋の中は空調が効いているとはいえ、炬燵に入ることを考えて少し低めに設定している。腰まで布団に覆われている自分は問題ないが、レオナルドを覆うように座っている彼は太腿からしか炬燵に入っておらず、もはや足元を温めるだけだ。
「平気だよ、レオナルドが温かいからね」
「さいですか」
「つれないな」
 スティーブンはつんと口を尖らせて不満そうだ。
 でもつれないもなにも、どう返せというのだろうか。可愛げがないと言われてもそんなもの持ち合わせていないし、わざわざそれを見せるのも逆に気持ち悪いのでは。そんなことを思いながらも、スティーブンも別段気にしているわけではないと知っているため考えることをやめた。
 少しばかり狭いし、炬燵が意味を成していない気もするが、まあ本人が問題ないというならこれでいいのだろう。
 コーヒーが零れないようテーブルに置き直して、後ろにもたれ掛かる。細身ながら鍛えられた体は包み込むような柔らかさはないが、寄り掛かっていると安心する。けれどもなんだかしっくりこなくて、身をよじって収まりのいいところに落ち着いたところで、腹にまわされた手に自分のそれを重ねた。
「レオ?」
 スティーブンは覗き込むように顔を傾げている。ふわふわとした気持ちの中、いつもより近いスティーブンの顔にレオナルドはなんだか気分が良くなってくる。
「今日はこのままのんびりしましょうね」
 それだけ言うと、手持ち無沙汰なレオナルドは前を向いてスティーブンの手を弄り始める。最後に目に入ったスティーブンはきょとりと目を瞬かせていたが、きっと今はゆるんだ顔をしているのだと思う。その証拠に、言葉にならないうめき声をあげながらレオナルドの肩口に顔を埋めていた。

やまもおちもいみもないゆるふわ系を目指した結果がこれです。
twitterにて初出。

2015/12/14