オーブンで焼かれた小ぶりのチキンにスライスされたバゲット、それにカリカリベーコンの入ったシーザーサラダ。いつもと変わらない夕食なのに、テーブルに並ぶのはいつもより豪華な食事。
「なんか豪華だな」
「ふふ、今日は特別です」
目元を和らげるレオナルドは何やら楽しそうだ。
「なんかあったのか?」
今日はこれといって特別な日ではないはずだった。祝日、記念日、思い当たるものどの日でもない。だというのに目の前の少年は特別だと言う。嬉しいことがあったからと言って食事を豪勢にするタイプでもなく、これまでも食卓を彩ることはなかったような気がする。さっぱり意味が分からないが、どうぞとすすめられれば食べないわけにもいかず盛りつけられた料理を小皿に取り分ける。チキンを切り分けながら尋ねると、別に、とにこにこ微笑むばかりで更に訳が分からなかった。けれどもレオナルドがこうして理解の範疇を超えることは少なくはないため、今回も別に悪いことはないだろうと用意された料理を口に放り込む。まずいことがあったのならば、それはそれで隠せるほど器用なやつではない。
見た目こそ豪華な食卓だというのに、広がるのは慣れ親しんだレオナルドの味付けでホッとする。飛び抜けて美味しいというわけではないが、少しずつ好みを合わせてきた味付けは、2人で一緒に過ごした時間が詰まっているみたいだと思う。卓に並ぶ品が同じでも、その変わらない優しい味はほかの誰にも作れないだろう。
「お前は食わねえのか」
つい夢中になってぱくついてしまっていて気が付かなったが、向かいに座るレオナルドは料理に手を付けていないようだった。からっぽの取り皿を目にして思わず手が止まる。視線を上げると、何が楽しいのか目の前の少年はにこにこと微笑んだままこちらを見ていた。
「見てて楽しいもんもねえだろ」
「んー…楽しい、とはちょっと違うんですけど」
呆れたように言えば、今の今まで逸らされることのなかった視線が下を向き少し考えるような素振りをみせて答えが帰ってくる。
食事をしている姿を眺めているだけでは腹は膨れまい。それにテーブルに用意された2人分の食事はダニエルだけでは食べきれるはずもなく、もし食べきれる量だったとしても1人で食べる食事は味気ないのだから口を付ければいいものをと思わずにはいられなかった。
「まあ別にいいけどよ」
本人の気が乗らないなら無理に勧めるものでもないかと、小皿に残ったチキンにフォークを刺して口に運ぶ。咀嚼して、飲み込んで。次の一口を運ぼうと口を開いたところで声がかけられる。
「ダニエルさん」
「あ?」
「幸せにしてくれてありがとうございます」
そう言うと、ただでさえ緩ませていた顔を一層崩して彼は照れくさそうに頬を赤らめる。一瞬の沈黙が場を包むと、改めて言うと恥ずかしいですね、なんて誤魔化すように早口で弁解を始めるがダニエルは肘をついた左手に額を乗せて大きく溜息を吐いて、心を落ち着かせる。
するとなんだ、この豪華な食卓も、レオナルドの緩みきった顔も、それで。そう思ったら堪らなくなった。

あなたは『幸せにしてくれてありがとう、と言う』壱李のダニレオのことを妄想してみてください。
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2016/02/11 twitterにて初出
2016/02/28 再録