幸リョ


幸リョ

リョーマin立海?


委員会のため部活に遅れた幸村が急いでコートに向かわなければと部室で着替えを済ますと、突然部室の扉が激しく開かれる音がした。こんな風に開けるのは赤也だろうと目星を付け注意するために目を向けるとそこには焦る友人の姿があった。参謀と呼ばれる彼は普段から余裕のある表情をしていることが多く今のように焦りを露わにするのは珍しい。
「大変だ、精市!」
「蓮二が慌てるなんて珍しいね、どうしたんだい。」
「詳しいことは移動しながら話す。とりあえずついてきてくれ。」
また誰かが問題を起こしたのかとも思ったが、そのくらいでは蓮二はこんなに焦らないだろう。いったい何があったんだと眉を顰めるが考えても仕方ないことだと自分の考えを一蹴し、了承の返事を返すと早足で彼が向かう先についていく。

幸村が連れてこられたのはコートだった。練習中のはずであるのにコートの一画を囲むように野次馬がおり、そちらの方から真田の声が聞こえてくる。不安に駆られる部員たちを落ち着かせようとしているが、ざわつきは収まりそうもなかった。野次馬をしている立海テニス部員の一部は部長が現れたことに気付き少しずつ道を開ける。薄くなった群集から覗いた光景を見た幸村は全身の血がひく音を聞いた気がした。
「おい、越前!大丈夫かっ!」
「動かすな。」
普段からコートに響く副部長の怒声に比べれば大して大きくもない声なのに、たった一言でそこにいた部員の動き全てが止まる。ギャラリーの大半が感じていた不安や焦りも忘れさせてしまう威圧感をまとい、部長である幸村はリョーマに歩み寄る。テニスをしているときとも違うピリピリとした雰囲気をまとった彼に恐れをなし、近づくものは誰もいなかった。
「頭を打っているかもしれない、下手に動かさない方がいい。」
意識を失っているリョーマの傍らに膝を付き気を失っているだけだと確認すると、リョーマの体の下に手を差し込みひょいと抱き上げた。所謂お姫様だっこと呼ばれるそれで、だ。
「とりあえず越前は俺が保健室まで連れて行くから、真田と柳はこの場の沈静をしてくれ。」
「あ、あぁ。」
唖然とするギャラリーを尻目に必要なことだけ言って立ち去った幸村。真田は突然のことについていけていないのか幸村のいつもと違う姿に恐れをなしたのか、生返事を返すことしかできなかった。



「んっ…」
まだ夢見心地ではあるがリョーマは目を覚ます。自室のものでない、見慣れない天井に違和感を覚え身体を起こし周囲を見渡すと学校の保健室であることに気がついた。ああそうか、練習中に飛んできたボールがぶつかったのか。ぶつかった箇所は少し痛むが他に問題はなさそうだった。シャッとカーテンが開く音がしたためそちらを見ると部活の先輩である幸村が立っていた。なんで部長がここに。ふと浮かんだ疑問。しかしその思いは目の前の驚愕した表情を見て全て消え去った。恐る恐る声をかけるとはっとしたように近づいてきて抱きしめられる。
「気がついたんだね、よかった・・・」
一瞬いつもと違う険しさを感じたが、こうしてふわりと笑みを浮かべる幸村を見ると気のせいだったのかもしれないと思う。体調を尋ねられ大丈夫と答えたはいいが、まだ状況がいまいち掴めない。そんなリョーマの状態を察し幸村は自分が付き添いであることを話した。

「わざわざ付き添ってくれてありがとーございました。練習は大丈夫なんスか?」
「気にしなくていいよ。どうせ越前が気になって練習に身が入らないからね」
「そういえば、ここまで誰が運んでくれたんスか?」
ふふ、といつもの笑みを浮かべながら言われた言葉にちょっとした羞恥を覚え、視線とともに話を逸らす。今の今まで気付かなかったが自分が倒れたのがコートならば保健室まで運んでくれた人物がいるはずなのだ。練習の邪魔をしてしまったわけだし後でお礼を伝えようと尋ねたのだが、自分がパワーリストをしていることもあり、見ただけでも力のありそうな真田副部長辺りが運んでくれたのだろうと確信していたリョーマは返ってきた答えに耳を疑ったのだった。
「もう一回言ってもらえます?」
「だから、俺だよ」

まさか、まさかまさかまさか!
リョーマは予想もしていなかった答えに言葉がでない。この目の前の細身な男が運んだなんて信じられない。
「信じられないって顔だね。じゃあ証明しようか」
自分を置いて進められる話にリョーマの思考が追いついた時にはもう遅く、浮遊感を感じると同時にリョーマは幸村によって再び横抱きにされていたのだ。
安定しない体制に思わず幸村のユニフォームを握ってホッとしたのも束の間、顔を上げると幸村の優しげな笑みが近くにあって落ち着かない。慌てて羞恥で赤く火照っている顔を隠すため帽子を目深に被ろうと鍔に手を伸ばすが帽子を被っていないためその手は空を掴む。
一連の動きを眺めていたのか幸村はくすくすと堪えきれなかった笑みをこぼす。必死なところを見られて笑われるのはなかなか気分の悪いことで顔の火照りもひかないままの状態で幸村をジトリと睨みつける。視線に気付いた幸村は謝罪を述べてくるがひどく軽く聞こえるそれに機嫌が治るはずもない。
「もう降ろしてくださいよ、幸村部長が運んでくれたってのは身をもって実感しました。」
「分かってくれたならいいよ。それと笑っちゃってごめんね。越前があまりにかわいかったから。」
恥ずかしいセリフのはずなのに、様になっているのがまた不愉快だ。


(とりあえず後で柳先輩に筋力強化メニューつくってもらおう)

幸村パワーSネタ。
入れると更に長くなりそうだったのでやめましたが、幸村は失うことの辛さを知ってるから近しい人が倒れたりすると内心すごくパニックになるんじゃないかと。でも立海の部長という立場があるので人前では冷静に対処するに違いない。という妄想の片鱗が残っております。作品内で説明しろっていうね。

11/09/25