「柳生さんってさ、
「そう・・・、ですか?」
「うん。」
周りからそう呼ばれていることは知っているし、
自分の名を挙げた時、大概の人が初めに思い浮かべるのも"紳士"だろうと容易に想像が付くほど定着した名。
誰が言い出したのかは分からないが紳士といわれて悪い気はしないし、
他人に対してそうありたいと自ら言動を見返すこともある。
それゆえに、リョーマの何気ない一言が引っかかったのである。
この2つ下の恋人は唯我独尊で生意気なルーキーなどと言われるているが、其の実、人のことをよく見ている。
人のことをよく見ているからこそ、
尊敬できない、または信用できないと判断した者に対して不遜な態度をとるのだ。
実際自分が認めた相手には多少生意気だろうと敬意を払っている。
そんな人を見る能力に長けたリョーマに紳士でないと言われ、
戸惑いを感じずにはいられなかった。
「君は、私のどういったところを見てそう思ったのですか。」
「仁王さんといるときとか、試合してるときとか、」
聞けば指折り数え返ってくる答えに納得してしまう自分がいた。
ダブルスペアの仁王はいつも好き勝手しているため、自分に厄介ごとが回ってこないよう、常日頃目を光らせている。
その姿は紳士足るものではない。
それに試合中に冷静さを欠くこともある。
強い相手との試合になれば熱くなってしまうのはプレーヤーとしては当然だろう。
言われてみて初めて意外と紳士らしさを失っていることに気が付く。
しかしリョーマの挙げる理由の中には本当に細かなことまであった。
よく見ているものだと感心すると共に、淡白そうに見えて自分のことを詳しく知っている恋人に愛おしさを感じる。
「あとはー・・・、俺といるとき、とかも。」
両の手をいっぱいに使って数えても指が足りなくなるくらいになったときだった。
自分で口にして納得したように頷く恋人の言葉が分からない。
もちろん他の人といるときと比べたら違うのは当然だが、自分はそう態度を変えてるつもりはないし、
変わっているとしても(自分で言うのもなんだが)紳士的になっていると思っていた。
かわいい恋人を目の前にして優しくならないなんてあり得ない。
「もしかして自覚ない?
俺といるとき、柳生さんの雰囲気ちょっとやわらかいっていうか、甘い?ちょっと違うな。
うーん・・・。うまく言えないけど、とにかく紳士ではない。
欲情の篭った目で見てるときもあるしね。」
ぱちくり、
まさにそんな表現が合いそうなほど大きく瞬きをする。
予想外の答えにどう反応すればいいのか分からない。
柔らかい、だとか甘い、だとか気にする前に気になったのは"欲情の篭った"という点だ。
2人でいるときに姿を現すその感情を一方的にリョーマに押し付けるわけもいかず、
悟られることがないよう己の内に秘めていたのにリョーマにはバレていたようだ。
「まったく、越前君には敵いませんね。」
「バレても紳士を貫くんだから、柳生さんだってなかなかのもんだよ。」
「おや、それは誘ってるんですか。」
「さーて、それはどうかな。」
ニッと生意気な笑みを浮かべるリョーマに一生勝てそうもないと思う。
けれどそれでいい。
別に勝ちたいなどとは思わない。
けれど折角かわいい恋人がここまでしていてくれているのに何もしないのも男が廃る。
さて、どうしたものか。
紳士がゆえに奥手なジェントルマンと紳士すぎるのも物足りないルーキー。
少しぐらいリョーマが押せ押せじゃないと進まなさそうな2人。
でもいざとなったら柳生も男を見せてくれます。よね?
クールな君へ5のお題より『では試しに挨拶から』
リライト様よりお借りしました。
11/09/28