発端は桃先輩の一言。
「お前ら、付き合ってるってマジなのか?」
今日は四天宝寺との練習試合だ。
わざわざ大阪の学校と練習試合なんてよくやる、リョーマはそう思いつつもまんざらではなかった。
それ以上に、久しぶりに財前に会えたという喜びがあったのだ。
リョーマと財前は付き合っている。
青学のメンバーに言ったことはないが、もう付き合いだして数ヶ月は経った。
最初は財前の淡白そうな性格や遠距離などを考えると自然消滅すると思っていたが、
意外にも財前がまめに連絡をくれるため今も交際は続いている。
だがしつこい程に連絡をしてくるわけじゃなかったし、
財前と話すのはリョーマにとっても楽しかったから交際を苦痛に感じたことはない。
むしろ滅多に顔を合わせることがなくてさみしいと感じることもあった。
本人に告げたことは一度もなかったが。
しかし大阪と東京なんて中学生が軽々しく出かけられる距離ではない。
まめに連絡をとってはいるが、やはり実際会うのとでは全く違う。
財前もそう思っているのか2人とも試合が無いときはどちらともなく2人で並んで試合を見ていた。
大した会話なんてないがそこに相手がいるというだけでなんとなく幸せな気持ちになる。
そうして迎えた昼休憩。
示し合わすことなく2人でお弁当を持ち寄り昼食にありつく。
そうこうしているうちにやってきたのが桃城だった。
さっきから桃先輩が見てると思ったらそういうことか。
午前中から視線を感じていたが、珍しい組み合わせだと不思議がっているのだと思っていた。
「そうっすけど、誰から聞いたんスか。」
リョーマは財前との関係を青学のメンバーに話したことはない。
しかし桃城の問いかけは付き合っていることを確信した上での疑問だった。
そこに嫌悪や嘲笑が含まれていれば相手にしなかっただろうが、
桃城のことばに含まれるのは純粋な疑問だけのため邪険に扱うわけにもいかない。
「忍足さん。それにしても黙ってるなんて水くせーな、水くせーよ。」
「聞かれなかったんだからいいじゃないすか。」
「いちいち誰かと付き合ってるかなんて聞くかよ!」
「わざわざ言う必要もないし。」
「ほんま生意気なやっちゃなあ、自分。」
埒の明かない応酬をしていると桃城の後ろから謙也が現れる。
自分の先輩の姿をみた財前はわざとらしく顔をゆがめた。
「なんや、おったんですか。」
「午前中気を利かして邪魔せといてやった先輩にその態度はなんやねん。」
「別に頼んでないんで。」
「おーまーえーなぁー!」
「それよりさっさとどっか行ってくれません。煩さくてしゃーないすわ。」
それ以降、財前はツンと澄まして返事をしなくなった。
謙也は何度か話しかけていたが、一向に返事が返ってこなくて諦めたようだ。
折角2人の時間を過ごしていたというのに桃城と謙也が現れて雰囲気を壊されてしまった。
聞きたいことも聞いたんだからさっさと向こうにいってくれないかと思う。
「もうええわ。桃城、行くで。」
「えっ!?ちょ、俺まだ越前に聞きたいことあるんですけど!」
「馬に蹴られんのがオチや。今日は諦め。」
謙也は大仰に溜息を吐くと、嫌がる桃城の腕を引き立ち去る。
途中ふと何かを思い出したようにこちらに戻ってきて、内緒話をするようにリョーマにこそりとしゃべるとまた引き返していった。
嵐が過ぎ去り、また二人でのんびりとした時間を過ごす。
「そういえば、さっき先輩なんて?」
もうすぐ休憩も終わりとなる時間、財前から聞かれたのは立ち去る際に謙也が言ったことば。
これは財前に言ってもいいのだろうか?
言ったら少なからず不機嫌になることは予想できる。
偶にしかない直接会える時間を無駄にするのは本意ではないとリョーマは告げないことに決めた。
「大したことじゃないよ」
財リョは淡々としてて、一見付き合ってるようには見えないのがいい。
でもふたりとも仲良し。
素直になれない君へ5のお題より『本当はうれしいけど』
リライト様よりお借りしました。
11/10/01