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幸せを映して

放課後、コートではラケットでボールを打つ音が響き渡る。
それはテニス部であるリョーマにとってはいつものことだが、今日は少し違っていた。
目の前のコートはいつも目にするフェンスに囲まれたものではなく、
自宅の裏にある手作りのものでもない。

コートには観客席やナイター設備が整えられており、一見学校のコートだとは思えない。
しかしそこで練習をしているのは揃いのユニフォームを着た中学生たち。
ユニフォームは袖と左側面を水色に染めた白地で、襟は黒く、右肩のあたりには真中の1本だけが太い7本の黒いラインが入っている。
何度も見たことのあるそれは練習に励む生徒が関東強豪校の1つである氷帝学園のテニス部員であることを示していた。
そう。リョーマは氷帝学園にいるのだ。

なぜ平日の放課後にリョーマがこんなところにいるのか、
それは学校が終わり部活に向かうところを突如現れた樺地と忍足に攫われたからである。
珍しい組み合わせだと驚いている間に樺地に担がれ、車に乗せられてしまい逃げられなくなったのだ。
いくら都内とはいえ、青学と氷帝は近い距離にあるとはいえない。
待ち伏せするとなると午後の授業は受けれるか怪しいのだが、わざわざそこまでして連れてきたい理由があったらしい。

リョーマをここに連れてきた張本人たちはテニスコートまで連れてくるとどこかへ行ってしまい近くに姿は見えない。
車で連れてこられたため自力で帰るのも面倒くさく、練習風景を眺めている。
流石氷帝と言うべきか平部員のレベルもなかなか高いのだが、リョーマは興味の引かれる選手を見つけることもできず手持ち無沙汰だった。

(あー、暇)

くあ、と1つ欠伸をして再び練習を眺めていると、リョーマの体に影が被さった。
ふいに暗くなる周囲に驚くことなくぼんやり前を見つめていると頭上から声が降ってくる。

「偵察が来てるっていうから確認に来てやったら、お前かよ。」

別になんということもないセリフだが、声だけで上に立つ者であると分かる風格をかもし出していた。
今さら見ずとも分かる。
この学校のテニス部を纏めている跡部がやってきたのだ。

「なんでこんなところにいるんだ?」
「アンタんとこの部員に連れてこられた。」
「あ?」
「忍足さんと樺地さん、だっけ。わざわざ青学までゴクローサマだよね。」
「あいつら、いないと思ったらそんなことしてたのか。」

呆れや怒りの混ざった声音になる。とはいえそれは忍足にだけ向けられていた。
練習メニューを増やそうだとか、ぶつぶつつぶやいているが、それも忍足に対してだけ。
樺地が自ら跡部の側を離れるはずがなく、忍足が何か企んでいるのは明らかだからだ。

「ところでさ、今日、誕生日なんだって?」

跡部がやって来てからも眺めていた練習風景から目をずらし顔を上げると、視線がピタリと合った。
いつもより少しだけ開かれた目は驚きの表れだろう。
珍しいものを見た。この男の驚く顔なんて滅多に見れない。とリョーマはそれだけで得をした気分になる。
だが、それも長くは続かず次は眉間にしわを寄せ、険しい表情を作る。

「忍足のやつ、余計な真似しやがって。」
「迷惑なら帰るけど?」
「そんなことは言ってないだろう。もうすぐ練習が終わるから待っておけ、送ってやる。」

だんだん日も落ちてきて、辺りはオレンジに染まっている。
くしゃりと撫でられ、ぼさぼさになった髪を整えていると、跡部は部員たちに指示を出すためにリョーマの前に出る。
遠ざかるその背を見て、肝心なことを言っていなかったと気付く。

「ねえ、」
「どうかしたか。」

声をかけるとすぐに振り返った跡部に、ニッと不敵な笑みと共に言葉をひとつ。

Happy Birthday,跡部さん!




「お前に祝ってもらえるなんて、最高のBirthdayじゃねーの!」

かっこいい跡部をめざしたのに、非常に残念です。
都内移動するのにどれくらい時間がかかるかなんて知らない。

『幸せを映して』
リライト様よりお借りしました。

11/10/04  跡部、永遠の15歳(笑)おめでとう!