ぽすん
メールを送信し終えたケータイを放り投げ、リョーマはベッドに身を投げ出した。
普段は何とも思わない時計の音も今は煩わしく感じる。
まだ寝るには少し早い時間だが、何もする気が起きないため、このまま寝てしまおうと布団を深くかぶるがなかなか寝付けない。
それもこれも先程のメールの内容が頭の中を占領しているからだ。
会えないか、という問いに対し部活があるから無理だ、という返事が返ってきた。ただ、それだけ。
ただ、それだけ、なのだ。
だがいつもなら言わないことを勇気を振り絞り、羞恥心を振り切り言葉にしたというのに色よい返事が貰えなかった、それがリョーマの心を大きく揺さぶった。
仕方ないと分かっている。
相手は立海の副部長である真田弦一郎。
真面目な性格から部活をサボるはずなどないと知っているし、その堅いとも言える真面目さは彼の好い所だ。
それに部活が忙しいのはお互い様で、たまたま自分のほうにオフがあったから尋ねてみただけで予定が合うとは初めから思ってもいなかった。
そのためリョーマは無理に食い下がることなく諦めたのだ。
だが、それでも、だ。
少しぐらい構ってくれたっていーじゃんか。
リョーマはそう思わずにはいられなかった。
いつだって部活部活で会うこともままならない。
向こうから誘ってくれたことは1度もなく、本当は自分だけが好意を寄せているのではないかと不安になってくる。
ネガティブな思考がぐるぐると頭をめぐり、目は冴える一方。
頭では仕方ない分かっていても心は会いたい、と叫び続けている。
こんな状態では寝れるはずもない。
それでも体を動かすことも億劫で起き上がることなくベッドに身を沈めたままでいる。
どれぐらい経っただろうか。
30分、1時間、・・・いや、10分も経っていないかもしれないが、ようやく思考が落ち着き始めてきた。
同時に眠気も襲ってきたが、落ち着いたから眠気がやってきたのか、眠くなったから落ち着いてきたのか、それは分からなかった。
一度気付いてしまうと眠気に抗うことができない。
ストレスが余計に疲れを生じさせていたのか、まぶたが重くて目を開けられない。頭も回らない。
ただ起きている理由もないのだからこのまま眠ってしまおう。リョーマは眠気に身を委ねた。
だんだん意識が遠くなる。
そのときだった。
枕元に放り投げたケータイがけたたましく鳴り始めた。
すぐに鳴り止むメールの着信音ではないため、電話の着信だとぼんやりとした頭で思う。
手探りでケータイを探し当てると、そのまま画面も見ずに電話を取る。
「はい、」
「寝ていたのか?邪魔してすまない。」
「真田さん!?」
電話口から聞こえた声に、さきほどまでの眠気も苛立ちも不安も忘れ飛び起きる。
なんで、という言葉は声にならず宙に消える。
「お前が言っていた日なんだが、」
「え、あ、ああ。部活があるんだったらしょうがないっすよ。」
なんだ、そのことか。
驚きで動いていなかった頭が冷や水をかぶせたように急激に冷める。
真面目な彼のことだからわざわざ謝るために電話をしたのだろう、そう結論付けたリョーマは先手を打った。
しかし返ってきたのはまったく違うもので。
「いや、午後はオフになったんだ。よかったら一緒にどこか出かけないか。」
とは言っても遠出はできないがな。
続けられたことばは耳に入らなかった。
「嫌ならそれでも別に構わないんだが・・・、」
「いや、行きます!」
返事をしなかったことで自分が嫌がっていると思ったのか、少しばかり真田の声が遠慮がちになる。
折角の機会を不意にすることはできないと慌てて返事をする。
それから神奈川で待ち合わせることを決め、電話を切った。
わざわざリョーマが近いとは言えない神奈川まで行くことにしたのは、少しでも長く真田と一緒に居るためだ。
最後に電話口から聞こえたのは「またな」という約束。
通話の切れたケータイをぎゅっと握り締めたまま布団に倒れこむ。
彼と話しただけで、会う約束をしただけで、こうも簡単に幸せになるなんて、自分はなんて単純なんだろうかと思う。
彼に会ったら何をしよう。何を話そう。
約束の日を考えるだけで気分は一層高揚し、当分眠れそうにない。
ケータイ持ってんの、とか気にしない。
海原祭の真田見てると、天然な真田の可能性にいきつきました。今回の真田はどちらかといえばそんな感じ。
もちろん顔に似合わずウブな皇帝も大好きです。
ただ、今回リョーマのキャラは迷走してます。
リライト様より甘えんぼな君へ5のお題『仕事仕事って、そればっかり。』を改変。
11/10/10