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やっぱり君の隣が好き

リョーマは柳の邪魔をしないよう静かに近寄り、そっと隣に腰を下ろす。
柳は気付いているのかいないのか、そのまま手元の文庫本から視線を外すことはなかった。

特にすることのないリョーマは自分の目線よりも少し高い位置にある柳の顔をじっと見つめる。
楽しいかと聞かれれば楽しくはないと答えるだろうが、不思議とつまらないと感じることはなかった。
もう見慣れた顔だが、こうしてじっくり見る機会というのはそう多くはない。
時に優しく、時に厳しさを見せる切れ長の目だとか、すっと通った鼻筋だとか、改めてキレイな顔をしていると思う。
動くとさらりと零れる真っ直ぐな髪も痛みがなく、ちゃんと手入れされていることが分かる。

ぱら...

静寂の広がる室内に、ページを捲る、擦れた紙の音だけが響く。

文字を追う柳と、そんな柳をじっと見つめるリョーマ。
先に痺れを切らしたのは柳の方だった。

「どうかしたか。」
「いや、別に。」

視線をこちらへ寄こし尋ねてくる問いに、リョーマはなんとなしに近寄ってみただけなのだから答えようがない。
だというのに柳は何かを分かった風に笑みを浮かべており、それが小さな子供を見て微笑ましく思うときのようであったから、リョーマはムッとして少し上にある顔をジトリと睨め付けた。
だが柳は更に笑みを深くするばかりで、気にしていないどころかそれすらも可愛らしいと思っているようだった。
リョーマがぷいと視線を逸らすと、柳は手にしていた本を閉じてその場に置きつつ、不貞腐れてしまった彼の頭を撫でてやる。

「気を悪くしたのならすまなかった。」
「柳さんは悪くないっすよ。俺が勝手にすねてるだけだし。」

そう、自覚はあるのだ。
けれど自覚があるからといって感情を制御できるわけでもなく、もやもやとした気持ちは晴れない。

「それでも原因は俺にあるんだろう。すまなかった。」

再度丁寧に謝る柳にリョーマは何もいえなかった。
変わらず自身の頭を撫でる手に安心し、気付けば心のわだかまりは消えていた。
そのまま柳にもたれかかり、肩に頭を乗せる。
優しく頭を撫でる手はそのまま。

そんな穏やかな時間が流れ、だんだん遠くなる意識のなかリョーマは思った。
この人の隣は居心地がいい。
共に口数が多いわけではないから会話も多くはないが、隣に並んでいるだけで安心する。

どうしてなのかは分からない。
確かなのは今この場所が好きで、きっとこれからも変わらないということ。

きっと、ずっと、これからも


今回のコンセプト:めざせぽわぽわーとしたほのぼの

リライト様より甘えんぼな君へ5のお題『やっぱり君の隣が好き』お借りしました。

11/10/15