Site Title


リョーマin立海


生意気なスーパールーキー。
俺にとっちゃそれ以上でもそれ以下でもない。

越前リョーマは入学してすぐ、その実力が認められレギュラーの座を与えられた。

現在2年唯一のレギュラーである切原赤也も入学直後3強と呼ばれる幸村、真田、柳に果敢に挑み実力を示したが、レギュラー入りはそう早くなかった。
そもそも1年は秋まで基礎練習が主で、入学してすぐにレギュラー陣と戦うことすら異例である。
赤也が入学早々試合ができたのは自分から挑戦状を叩き付けたからだ。
越前は別に自分から挑んできたわけではない。
つまり、今回のことは何もかもが異例なのである。

自分も彼と試合をして苦汁をなめさせられた。
今はダブルス専門とはいえ、この立海でレギュラーになっているのだから、シングルスでも並の選手よりかは強いと思っている。事実、部内での試合ではレギュラー陣以外には負けないのだ。
それでも、越前にはまるで歯が立たなかった。

これは後になって知ったことだが、越前はアメリカのジュニア大会で4連勝を果たしているらしい。

(そんな情報、柳と幸村君が知らないはずないよな。)

参謀と呼ばれている柳のことだ。ぬかりなくチェックしていたに違いない。
部に関わることなら柳から部長の幸村にも情報が行くだろう。
そうでなかったとしても、幸村はどこからか情報を手に入れて来ていたのは想像に難くない。
確かな情報源は分からないが、もともと実績があったことを知っていた幸村が越前の実力を試すのはおかしなことじゃない。

そうして越前は幸村の期待以上の強さを見せた。
だからこそ常勝を掲げる実力主義の立海で異例の1年レギュラーの座を与えられたのだ。

別にそれはいい。
強いヤツが上にくる、それは当然のことだ。
だが如何せん贔屓されているようにも見えて近づき難いのである。

ブン太は自分は面倒見がいい方だと自負している。
弟が何人もいるせいか年下を見ているとなんとなく放って置けない。
それなのに越前にだけはその気持ちが起きなかった。

生意気だからだろうか。
いや、赤也もタイプは違えど相当生意気な部類に入るだろう。
トラブルメーカーだからだろうか。
いや、赤也もトラブルメーカーだ。それに暴力に走ることがある分赤也のほうがタチが悪い。

それならば、なぜ?

改めて考えると越前には可愛げがないんだと思い至った。
生意気だし、遅刻はするし、試合は容赦ないし、何より笑ったところを見たことがない。
赤也はなんだかんだで人懐っこく怨めないのである。
どれだけ問題を起こそうと、赤也の周りには人の姿は絶えない。
だが越前が部活中にレギュラー以外と話すのはオレンジ色の髪をした1年くらいのもので、そのときも笑みは見せていなかった。
常に仏頂面の後輩を、嫌いではないが、可愛がれる気にはならなかった。

そんなブン太の印象が変わったのはある日の練習でのことだった。
なんとなく越前が落ち着かずそわそわしているように見えたのだ。
練習にも身が入らないのか普段ではあり得ないミスを連発している。
気付いている者もいるようだが誰も理由を聞いていないらしく気まずい空気が漂っていた。

この状態で真田が来たら間違いなく叱責が飛ぶ。
そうなれば連帯責任で自分たちにも被害が及ぶかもしれない。
それは嫌だとブン太は事前に問題を解決してしまおうと越前に近づく。

「越前、なんかあったのか?」
「丸井先輩・・・。いや、なんでもないっす。」

ふいと視線を逸らされるが、その表情は翳っていた。

「なんでもないっていうなら別にいいけどさ、気になることがあるなら話してみろい。少しは気が楽になるかもしんねーぜ。」

ぽんと頭に手を置き、できるだけ優しく語りかける。
警戒されたら意味がない。安心させるよう、なるべく優しく。
その甲斐あってか、越前の目は話してもいいものかと揺らぎはじめた。

「別に無理に話せとは言わねえよ。でも、もし手伝えることがあったら手伝うぜ。」

それが決め手になったのか、越前は恐る恐るといった風に話し始めた。

話を聞くとどうやら家で飼っている猫が学校に来ているかもしれないということだった。
見間違いかもしれないが、学校で見たし、それらしい話も聞いたと。
だがそれが本当かは分からないから部活を放って探しに行くわけにはいかない。

「いつもはこんな遠くまで出歩くことなんてないから、もし何かあったら・・・」

心から飼い猫の心配をしているのだろう。
紡がれる言葉はたどたどしく、端々には不安からか震えも感じられた。

こうしているうちにも刻々と時間は過ぎていく。
何かしてやれるとしても、いつになるかわからない真田が来るまでの僅かな時間しかない。

「ちょっと口開けろ。」

いぶかしみながらも素直に従う越前の口に、ポケットに入っていた飴を放り込む。

「悪い方に考えてもロクなことがねーよ。甘いもん食ったら少しは気も晴れるだろぃ。」

ま、本当はクッキーとかケーキとかやりゃいいんだろうけど、生憎ここにはないからな、なんて。
ダブルスペアであるジャッカルが聞けばそれが効くのはお前だけだとつっこんでいただろうが、ここにはいない。

「部活のことは気にすんな。真田にはうまいこと言っといてやるから探しに行けよ。」
「でも・・・、」
「そのまま出ても怒られるだけだろ。部活中に他所事を考えるなど、たるんどる!ってな。」

尚も渋る越前に副部長の叱責を真似ると、越前はクスクスと笑い出した。

「そう、っすね。ちょっと探してきます。丸井先輩、ありがとうございます!」

去り際にいつもの不敵な笑みで副部長の真似似てなかったっすよと言い残し立ち去っていく。

「にゃろ・・・、かわいくねー!」

そう口にしてはいるものの、自然と笑みが浮かんでいた。

真田に越前欠席の連絡をしなければいけない。
なんとも骨の折れそうなことだが、不思議と嫌だと思う気持ちはなかった。

飴を取り出そうとポケットに手を入れると、1つしか残っていない。
補充しておかなければと思いながら最後の1つを口に入れる。

口内でコロリと飴を転がすと広がるのはブドウの味。
それは、生意気なだけかとおもいきや、その実かわいい面も持ち合わせた後輩の姿を彷彿とさせた。

可愛いところもあるんだな


「今度お菓子でも食わせてやっかな」

カルピンの冒険好きだったなぁ。

リライト様より生意気な君へ5のお題『可愛いところもあるんだな』

11/12/02