「ねえ帝人君。もし俺が死んだら君はどうする?」
その問いかけはあまりにも突然だった。
いつもと変わらない笑みを浮かべている彼の問いにどう答えればいいのか分からない。さらに言うなら質問の意図も分からない。そんな笑顔で聞くようなことでもないだろうとは思ったのだが、この人のことは到底理解できないだろうとよく分からない理屈で納得してしまった。結局質問に答えられずだんまりのままでいると、「ねぇ、帝人くんー」と催促する声。
困った帝人は、ボンヤリと”なぜこんなことになっているのか”そればかりを考えていた。
朝起きて学校に行く、そして帰りには目の前の人物が声をかけてくる。そんないつもと変わらない毎日。もちろん新宿を拠点にしているはずの彼、折原臨也が毎日池袋に現れることは異常なのかもしれない。―しかも高確率で天敵である平和島静雄と遭遇しているにもかかわらず、だ!―しかし、こうも毎日放課後現れられると当たり前に思っても仕方がないと思う。
「やぁ、偶然だね」
正臣と園原さんと別れて間もなく声を掛けられた。今日もまた目の前には彼がいて、いつもどおりのあいさつをしてくる。偶然だなんて白々しい。いい加減偶然だなんて言うのをやめればいいのにと内心そっと呟く。思っていても口に出せるわけがないのだけれど。もし口に出してしまったらさらに厄介なことに巻き込まれるに決まっている。
「こんにちは」
軽く会釈するとその場をすぐさま通り過ぎる。正臣が言っていたように、この人物とはあまり関わらないほうが良いだろう。帝人は折原臨也と必要以上に関わる気はまったくなかった。いつもあいさつを交わすだけで満足するのか、これだけで済んでいるため、今日もすれ違った時点で少し気が楽になった。
ふぅ、と一息ついていると、手首を捕まれる感触と共にいつもなら聞こえないはずの音が聞こえた。
「ね、ちょっとお茶、しない?」
断ることもできずついてきてしまったが、帝人は早くも後悔し始めていた。連れられて来たはいいが、着いて早々冒頭の質問だ。いつもつかめない人だけど、今日は一段と掴めない。とりあえず、質問の意図が分からないのならそこから明らかにすべきだろうか。
「ね、聞いてる?帝人君」
考えているうちに焦れてしまったようで催促してくる。
時間を置くと僕の頭も少し動くようになってきて、冷静に状況判断をしていると無性に腹立たしくなってきた。なんで勝手に連れてこられた上に、意味の分からない質問をされているんだ!
「聞いてますよ。それで、臨也さんはついに静雄さんにでも殺されるんですか。それとも何かヘマでもやらかしましたか?」
「まさか!シズちゃんにやられるだなんて!」
これくらいの仕返しをしても非は無いだろう、と嫌味をこめて答える。
すると、それともそれは心配してくれてるのかな。でも大丈夫、俺は素敵で無敵な情報屋さんだよと、よく分からない理由を誇らしげに語られた。
嫌味には気付いているのかいないのか、反応することはなかった。
(この人のことだから気付いているに決まってる、か)
「で、どうするの?」
「どうするもこうするも…お葬式挙げたりするの僕じゃないんで。でもそっか、残念です」
「俺が言ってるのはそういうことじゃないんだけどな。ていうか帝人君さ、暗に死ねって言ってるよね?酷くない?」
抽象的に聞いてきたほうが悪いとばかりに見当違いの返事を返す。というかやっぱり気付いてるんじゃないか。
居てほしいか居てほしくないかでいわれると、臨也さんに関わると碌なことにならないだろうからいないほうが楽かもしれない。だからといって別に死んで欲しいとは言っていないし、これっぽっちも思っていない。内容はちょっとあれかもしれないが、いつもの調子を取り戻せてきたようで、向こうも口数が増えてきている。そろそろ無駄な応酬をするのもやめにするか。
帝人はしっかりと臨也を見据えて口を開いた。
「臨也さんが死んだら笑顔で見送ってあげますよ」
きょとん、という擬音語が一番しっくりくるであろう表情をして、臨也さんは固まる。
「ははっ……やっぱり君は性質悪いや」
「臨也さんには言われたくないです」
僕が質問の意味を理解していたことをようやく解ってもらえたのはいいが、性質悪いとは心外だ。自分で言うのもなんだが、臨也さんに比べたら僕なんてまだまだかわいらしいものだろう。
「てかさ、帝人君は悲しんでくれないわけ?流石の俺でも傷つくよ〜?」
さっきから本人は軽い調子で言っているつもりのようだが、顔にはほんのわずかに悲しみが表れている。本当、今日は何なんだ。さっきからのこれは弱音なのか。もし弱音なのだとしたら、めずらしいこともあったものだ。明日は池袋に槍でも降るのだろうか。それよりも、いつもどおり自販機が飛んでいるほうがいいのではないだろうか。いや、どちらも起きて欲しいわけではない。ただの、“折原臨也”という人物にはありえない態度からの現実逃避、だ。
埒が明かなくなってきてだんだん面倒くさくなってくる。
「なら逆に聞きますけど、悲しんで欲しかったんですか」
「そういうわけじゃないけど……」
「そうですか。僕は好きな人には笑っていて欲しいんですよ」
臨也さんがそうじゃないなら、考え方の違いってことで諦めてください。
もう疲れた、帰りたい。そう思い投げやりに言ってやった。明日提出物とかあったっけと考えるが、答えが出る前に今日は疲れたからもういいかと諦めてしまう。それほど疲れたのだ。
本人には告げられない不満が沸々と溜まっていく。週末にしてくれればよかったのに、だとか、やっぱりこの人と関わると碌なことないんだな、だとか。この人がなんと言おうとも正臣の言うとおり、関わらないほうが良かったのかもしれない。
「確かに笑ってくれるのが一番だけど……って、……え?」
目を見開き凝視してくる。臨也さんこんな顔もするんだなあ、やっぱり明日は槍が降るのか、なんてことを暢気に考えていた。すると身体に衝撃が来て後ろに倒れこむ。自分の肩の辺りには黒い髪の毛。ふわりと香るなれた匂いに、何やってんですかと言おうとしたが、口にする間もなく臨也さんは苦しいまでに抱きついてきた。
「愛してるよ!」
耳元で聞こえたのは、さっきまでとは打って変わって嬉しそうな声だった。
初デュラなのでキャラが掴めていません。二人とも別人ですよねすみません。
10/02/02