静雄さんを通してつい最近知り合った幽さんと偶然街で遭遇し、話すこと十数分。
話すといっても帝人も幽も自分から話を広げるタイプではないため、会話が弾むということはない。
それでもこの空気は嫌いじゃなくて、なんとなく抜けだしたくない。
それに、幽が話す昔の静雄の話に興味があったのだ。
初めて投げようとしたのは冷蔵庫だったとか、イライラするとものを踏み潰すのは昔からだとか・・・、
力を発揮するようになった切欠がプリンを食べられたからだということは信じられないが、今でも甘いものは好きだと言っていたから嘘ではないだろう。そもそも幽が嘘を付いているとは思えない。
帝人が話を聞けば聞くほどこの2人って似てないよなあと思ってしまうのも仕方が無いのかもしれない。
感情の起伏が恐ろしく激しい兄に対し、まったくと言っていいほど起伏を見せない弟。(静雄さんに言わせれば偶に顔に出てる、らしいがまったく分からない)反面教師にしたってなかなかここまで極端にはならないだろう。
もし静雄さんが大人しかったなら幽さんは人並みに笑ったり泣いたりしているのだろうか。
素朴な疑問だったが、ドラマや映画などで見かける幽の表情豊かな姿はともかく、静雄が大人しくなったとしたら真っ当な職に就いているのだろうかというところで止まってしまう。
会社員、接客業、技術者、幽さんと兄弟なだけあって見目はいいのだから業界にだって入れるかもしれない。業種はでてくるのに、そのどれもがしっくりこず、働いている姿が頭に浮かばない。
やっぱり静雄さんは今のままが一番じゃないかなあと思うとつい笑みがこぼれてしまった。
それをみると何を思ったのかふわりと頭を撫でてきた幽さんにデジャビュを感じた。
「本当に幽さんって静雄さんの弟なんですね」
「そうだけど、なんで?」
似てないと思っていたが、そんなこともないらしい。
「静雄さんと撫で方がおんなじです」
会うたびに頭を撫でてくる大きな手を思い出してさらに顔が緩む。
そう言った途端に幽の動きはぴたりと止まる。
「兄さんが・・・」
「どうかしましたか?」
何か思うところがあったのか少し考えごとをしていたようだが、1分もしないうちに自己完結されてしまいまったく話が見えない。
とりあえず、
うちの平和島兄弟は帝人の頭を撫でるのがお好きなようだ。いや、私が撫でたいだけかもしれない。
10/02/21