天気良し、気温良し、気分も上々。絶好の外出日和だ。
天気予報によると今日は一日晴れるらしい。
高ぶる気持ちを抑えながら扉を開けると、ひらりと手を挙げる臨也さんがいた。
「今すぐ僕の視界から消えてください、タイムリミットは次に僕が扉を開けるまでです」
早口に言い切り、相手が何か行動を起こす前に扉を閉める。
今見たものは幻想だと自分に言い聞かせ、深呼吸をひとつ。あの人がすんなりと言うことを聞いてくれるとは思わないが、わずかな希望を胸に再び扉を開ける。
「やあ、いい天気だね。それにしてもいきなり酷いんじゃない?」
先程までの高揚した気分は一気に下降し、嫌悪感とうっとおしさが心の中に蔓延する。
いっそ家の中に閉じこもってしまおうかとも思うが、待ち合わせをしている以上そんなことができるはずもなく、諦めて外出のため施錠する。
相手をすると付きまとわれるのが目に見えているため、何事もなかったかのように素通りを試みる。
すたすた、カツカツ
すたすた、カツカツ
寂れて閑静な通りに響く2つの足音。ひとつは言うまでもなく自分のものだが、もうひとつは臨也さんのものだ。
気のせいかもしれないけれど足音が軽やかだ。よっぽど機嫌がいいのだろうか。
しかしそれとは真逆に自分の心は落ち込むばかりで、眩く照りつける陽の光さえもなんだか恨めしく思える。
重症だなあ、なんて冷静に考えられるうちはまだ大丈夫だろうか。
「邪魔です消えてください。これから静雄さんと会うんです」
もう少し行けば人通りも増えるというところで振り返る。
邪魔なのは本心だが、それよりもこの人と静雄さんを引き合わせる方がよっぽど厄介だ。
争うにしても僕のいないところでやってほしい。本当なら争わないのが一番だけれど、2人を見る限りそれは無理な話だろう。
でも、せめて静雄さんが僕と一緒にいるときぐらいは僕のことを見てほしいのだ。
「ほんっと帝人君は冷たいな。でも、それぐらいじゃ俺は諦めないよ?」
カツリ、カツリ
にこにこと胡散臭い笑みを浮かべながら近づいてくる。
カッ
突然ピタリと動きを止め、あらぬ方向へ移動する。
いきなりどうしたのだろうかと思っていると目の前を飛んでいく何か。
それはそのまま横の家の塀にぶつかり、塀が崩れ落ちる音がした。目を向けるとよく見る標識が瓦礫の中に埋まっている。
「いーざーやぁぁぁぁぁぁああああああああああ!」
背後からは腹の底から絞り出すような怒声が聞こえる。
振り返ると、先ほど標識を投げたままの体勢からゆらりと上半身を起こし、新たに十字路の角に立てられた標識を手に取る静雄さんがいた。
標識を振りかぶっているにも関わらず、気がついたら駆け出していた。危ないだとか、そんなことは全く思い浮かばない。
会えたことが嬉しくて、勢いはそのままに抱きつく。驚きはしたようだがふらつく事もなく片手で抱き止められた。
「静雄さん!」
「帝人君、態度違いすぎない」
「当たり前じゃないですか」
片や想い人、片やストーカーまがい。どちらにも同じ対応をしろって方が無茶だと思う。
「付いてきちゃって・・・、すみません」
「お前の所為じゃねぇってことは分かってっから」
申し訳なく思いながらも、やっぱり会えたことの喜びの方が大きくて、強く抱きしめる。
彼から伝わる体温や匂いが、じわりと染み込んでくるようですごく安心できる。
ここが道のど真ん中であることも忘れて心行くまま静雄さんを堪能していると、チャキッと金属特有の甲高い音が後ろから聞こえてきた。
「本当面白くない。まあ、今なら静ちゃんも動けないみたいだし?」
くるくると手の中でナイフを遊ばせながら物騒な予告をしている臨也さん。
僕が離れればいいと分かっているが、わざわざ臨也さんのために離れるなんて、まさか。
常備品となりつつあるボールペンを片手で鞄から取り出しカチリと芯を出す。
自分でもまぬけな格好だとは思うが、抱きとめられたまま臨也さんの方に視線をやる。
「静雄さんを傷つけるなら、相応の覚悟、してくださいね」
フリリク 静帝+臨で、「静雄にはべた甘なのに臨也には絶対零度に冷たくて辛辣な帝人君」
何か違う気がします。すみませんでした!
初出10/03/27
改訂12/08/01