「また好き放題してる連中がいるみたいですよ、先輩。」
「また?…減らないなぁ。」
先輩は小さく溜め息をつくと、どこか遠くを見つめるように窓の外へと視線をやる。
慈しみの含まれた視線、その先にあるものはいつだって変わらない。
自分の傍から姿を消してしまった幼なじみと、恋い焦がれる相手。
それに比べこんなにも近くにいるのに俺は相手にされていない。
いや、こういうと語弊があるかもしれない。
相手にされてはいるが、あくまで先輩にとっては以前の関係を取り戻すための“駒”でしかないのだ。
先輩自身にそのつもりは無くとも、もし以前の関係を取り戻したら高い確率で切り捨てられるだろう。
もしろん簡単に縁を切らせるつもりもないが、それだけの関係でしかないのは承知している。
だが、“向こう側”の知らない先輩がいるのも確かだ。
「で?」
すっと視線だけをこちらに寄越すと、先輩は問うた。
「潰す手配はしてますよ」
「相変わらず仕事が早いね」
「お褒めいただき光栄ですよ」
「そんなこと思ってないくせに」
くすりと笑ってみせる先輩だが、その目に普段の優しさは写らない。
目の前にいるのは来良学園に通う竜ヶ峰帝人ではなく、
ブルースクエアを呑み込んだDOLLERSの創始者。
幼馴染でさえも知らない、先輩の一面。
こんな風に笑みを浮かべる先輩を知るのは僕だけ。
途中放棄を無理矢理まとめたので尻切れトンボ。
不器用受け五題より『誰も知らなくていい、僕だけでいい』
リライト様からお借りしました http://lonelylion.nobody.jp/